R5年 新春座談会
伊豆地域を多様なライフスタイルの拠点へ
新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとして広まったテレワークやワーケーションなどの働き方が、新しい生活様式として定着しつつある。働き方改革の推進も相まって、県内の各自治体でも首都圏ワーカーの利用を目的としたサテライトオフィスの誘致や、移住促進・地域振興事業に力を入れている。今年の新春座談会では伊豆地域に移住・拠点を構えて活躍する女性をゲストに招き、新しい生活様式の魅力や課題、今後の方向性などについて語ってもらった。
<出席者>
・静岡県沼津土木事務所 所長 山本 浩之氏
・静岡県熱海土木事務所 所長 杉本 文和氏
・伊東商工会議所中小企業相談所
経営指導員 富田 沙紀氏
・伊豆市プロモーションサポーター兼
移住コネクター 十倉 亜沙美氏
・ボランティア 三島市移住アンバサダー
松久 綾子氏
・三島建設業協会広報委員
座談会司会 出口 直樹氏
・三島建設業協会 会長 小野 徹氏
<司会>
・三島建設業協会広報委員会
委員長 山本 裕二氏
移住者増へSNSで魅力発信
山本(委) あけましておめでとうございます。本日はお忙しいところ三建だより新春座談会にご出席いただき、誠にありがとうございます。今回は『伊豆地域を多様なライフスタイルの拠点へ』をテーマに、皆さまに語っていただきたいと思います。開会に当たり、小野会長からごあいさつをお願いいたします。
小野 コロナ禍において、テレワークやワーケーションが世の中に浸透しています。伊豆地域では都会への通勤時間が無くなった分、自由な時間が増え、恵まれた自然の中で人生を楽しむ余裕を持つ人が多くなったと感じます。北伊豆は日本有数の観光地であることから、観光客の誘致に目が行きがちですが、訪れるだけではなく「住んでよし、働いてよし」の魅力的な場所だと感じています。また、温泉や農林水産物が豊富でありながら東京へのアクセスも良いという地の利もあります。世間では少子高齢化による担い手不足や仕事の電子化で働き方改革が進んでいますが、伊豆地域でも「新しい働き方、生き方、楽しみ方」を巡る多様なライフスタイルが生まれようとしています。本会では、伊豆地域を新しいライフスタイルにふさわしく振興していくための方法を皆さまと一緒に考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
出口 まず初めにゲストの皆さまが住んでいる場所の「推し」を教えてください。
富田 コロナ禍ではありますが、道の駅伊東マリンタウンは開業10年以来最高の売り上げを記録しており、経済の回復を象徴しているのではないかと考えています。感染症の流行から3年が経ち、事業者様の間にも前進への気概を感じます。この良い波に乗って伊東が盛り上がり、多くの方々に「住んでよし、訪れてよし」の町をアピールしていきたいと思います。
十倉 伊豆市のおすすめは修善寺虹の郷というテーマパークです。園内にはロムニー鉄道という自由に乗れる機関車があり、鉄道好きの息子もとても楽しんでいます。夜はイルミネーションが点灯したとても美しい光景も見られますので、若い方にもおすすめです。伊豆市民は基本無料なため、家族連れの方々にも優しいのがポイントです。
松久 三島はせせらぎの町と呼ばれ、市内各地の湧水がとてもすてきです。週末は2人の息子と一緒に湧水で有名な白滝公園に散歩に行き、水に足をひたしたりして楽しんでいます。
出口 移住の決断には大きな勇気も必要だと思います。松久様と十倉様のきっかけは何だったのでしょうか。
松久 もともと三島市で生まれ育ち、大学進学~就職まで10年余り東京で暮らしていました。結婚して第一子が生まれ、仕事を続けるために保育園を探していましたが中々受け入れてもらえる園が見つからず、自身が東京で子育てをするイメージも持てなかったため、三島にUターンしました。三島では無事保育園も見つかり、同じ仕事を続けながら暮らすことができています。移住当初は新幹線で通勤していたため、毎日品川駅の構内を走っていたことが記憶にありますね。夫も東京で働いていますが、基本はフルリモートワークです。
十倉 私は熊本出身で、中高と徳島で過ごした後に東京で10年ほど働いていましたが、子どもは田舎で育てたいと思っていました。移住先で在宅中心で働くために、個人事業主にもなりました。夫も東京で物流関係の仕事をしているのですが、会社と調整して週の半分は在宅で働けるような環境を整えています。
出口 実際に移住されてみて良かったことは何でしょうか。
松久 母親になって戻ってきたことで、三島の良さを再認識しました。空気のおいしさや水の美しさはもちろん、新しく移住してきた方々やそれまでにないビジネスに出会えて、歴史と新しいものが混ざり合って町が進化していると感じています。
十倉 東部を中心に4年ほど移住先を探して伊豆市にたどり着きました。子どもの送り迎えをしながら、毎日美しい山や川などの景色と四季の移ろいを見られるのはとても贅沢なことだと感じています。
出口 富田様はお仕事でワーケーションなどの相談も承っていらっしゃいますが、現在の状況はいかがでしょうか。
富田 コロナ禍を受けて、宿泊事業者様を中心にホテルや宿をワーケーション用に改装したいという相談を受けることが増えています。実際に改装をされたところに都会からお試し移住をする方々もいらっしゃり、ワーケーションなどの新しい生活様式が定着しているのを感じています。
松久 十倉様が移住先として伊豆市を選ばれたのは何故でしょうか。
十倉 夫の実家が神奈川県横浜市旭区にあるため、移住先はできるだけ帰省しやすい場所をと思っていました。茨城も考えましたが、住みやすそうなイメージと富士山へのあこがれもあり、伊豆への移住を選びました。
出口 地方には都会でキャリアを積まれて移住された方に見合うような仕事が少ないという意見も有りますが、どのようにお考えでしょうか。
十倉 選べる業種が少ないというのは事実としてあると思います。特に女性は子どもを預けながら働くとなると選択肢が限られてくるのが実情です。またIT企業なども少なく、移住前までと同程度のキャリアを積むのは現実的に難しいのではないかとは感じますね。
松久 私も三島で職を探す際にハローワークを利用したのですが、パートタイム求人が多いと感じました。ただし自身のやりたいことを始めやすい場所でもあるので、起業なども一手だと思います。
歩行者にやさしい道路整備を
富田 私は起業をしたい方の相談を受ける立場なのですが、年3回の起業カリキュラムは毎回満員です。移住者が8割の回もあり、「創業移住」がトレンドになってきているのではないかと感じています。伊東市は補助も多いので、それも後押しになっているのかもしれません。
十倉 私も伊豆市の起業支援補助金制度を活用して「親子カフェ」のオープンを進める予定です。東京などの都会ではありふれているサービスでも地方ではまだ浸透していないこともあるので、そこにチャンスがあると思います。
出口 話を変えて、伊豆地域の道路事情について何か意見はございませんか。
十倉 私の住んでいる中伊豆からは伊東に行きやすいので、近隣の土肥よりも伊東方面へ出かけることが多いですね。伊豆縦貫道路ができてアクセスが良くなったという声をよく聞きます。
富田 車が好きでよくドライブしているので、道路インフラには関心が有ります。特に伊豆縦貫道路は救急医療施設へつながる「命の道」でもあるので、さらにアクセスが良くなることを願います。
出口 両所長様からもインフラ整備についてお話をいただきたいのですが。
山本(所) 新東名高速道路と圏央道がつながってから、伊豆地域の観光客数は飛躍的に増加しています。高架幹線道路では、神奈川と静岡を結ぶ伊豆湘南道路を整備計画中です。また伊豆地域各所の道路も整備を進め、伊豆縦貫道路とのアクセスを良くすることで渋滞や混雑の解消、地域振興の一助となることを目指しています。
杉本 伊東大仁線で追い越し車線の整備を進めており、今年度には現在の事業区間が完了する見通しです。国道135号伊東市吉田川奈4車線化事業も進めています。土木事務所の大切な仕事として、都市計画・まちづくりがあり、電線地中化などを行い、住みやすいまちづくりに励んでいます。
山本(所) インフラの重要性は災害などの有事によく分かります。日頃から様々な意見を挙げてもらえれば我々もそれに向けて改善をしていきます。ぜひお住まいの地域のインフラに関心を持っていただけますと幸いです。
杉本 道路整備やまちづくりについて、移住者視点での課題を教えてください。
松久 三島は主要な道路は整備されていますが、住宅地に入ると道路がガタガタしていて、ベビーカーやキャリーバッグなどの車輪が壊れてしまう恐れがあります。歩行者専用道路や車の通行ができない道路などを整備して、もっと歩行者に優しいまちづくりも行ってほしいです。子どもを持つ身としては、スクールゾーンによる安全対策なども考えてもらえればありがたいです。
小野 伊豆地域にもっと移住者を増やすためにはどのようなことを行えば良いと思いますか。
富田 地域ぐるみで情報を発信して移住希望者への認知度を上げることがまず大事ではないかと思います。各地域の良いスポットを協働でPRし、伊豆地域全体をエリアブランディングすることも必要になってくると思います。
小野 どのような方法を使って地域の魅力をPRされていますか。
松久 三島市移住アンバサダーとして、ツイッターなどのSNSで「#三島市移住」というハッシュタグを使って三島の魅力を発信しています。
十倉 同様にSNSで「#伊豆市いいね」というハッシュタグを使ってPRしています。こちらは誰でも使えますので、色んな方が伊豆の魅力を発信していますね。
出口 十倉様は熊本ご出身ですが、同じ地方として伊豆との違いはどう感じていらっしゃいますか。
十倉 伊豆は人口も3万人程度で落ち着いた印象です。新聞に載る機会も増えて、自分が始めたことで地域が変わるような感覚がありますね。
出口 建設業に対する期待や今後の抱負など最後に一言ずつお願いします。
富田 建設業は社会インフラを構築する上で欠かせない旗手だと認識しています。皆さまのお話を聞いてもっと業界のことを勉強していきたいと思いました。
十倉 建設業がまちづくりに密接に関わっていることを知りました。今後は業種を超えて一緒にまちづくりをすることで、より良い伊豆地域を作っていけるではないかと期待しています。
松久 建設業は時代や社会の変化を見据えながら社会インフラを整備する重要なお仕事ということを再認識しました。これからは自治体の境を超えて協働することで、伊豆地域を盛り上げていきたいです。
山本(所) 本日の意見を参考に、自身の仕事の認識を変えていく必要もあると感じました。建設業の皆さまにはまちづくりと同時に有事における地域の守り手として、一緒にがんばっていただければ幸いです。
杉本 建設業の皆さまには伊豆山土石流災害の初期から24時間復旧活動にご尽力いただき、誠にありがとうございます。これからも地域に根差した活動を一緒に取り組んでいきましょう。
小野 ワーケーションなどの新しい生活様式が身近になっていると実感すると同時に、地方と都会のネットワークづくりはこれからが勝負だとも思いました。我々も皆さま方の情報発信をこの新聞でお手伝いできれば何よりです。本日は貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました。